N.C.24年 3/21日 13:00
日本国 北海道札幌市近郊上空 戦略要塞艦『リュウゾウ・オネシロ』 CDC 


 薄暗いCDCの中、私とジオさんは状況把握と命令待機で隅のベンチに並んで腰掛けていた。決して仲良くではない。
  その証拠に、ジオさんはさっきから難しい顔をして俯き、押し黙ったままだ。きっと、私が同性愛者と知って身の危険を感じ、部屋を変えるべきか悩んでいるの かもしれない。本当ならば、すぐにでも部屋を変えたいところだろう。しかし、彼には"私-寺崎 リイチ-の護衛という任務"があり、最も効率が良い身辺警 護は同居してしまうことだ。それを考えれば、そう簡単に事が運べないのだろう。

「…あの、ジオさん?」

「む、なんだ?」

 私の呼びかけに、少し疲れた表情でジオさんはこちらを向いた。こんな表情をするのも自分のせいだと思うと、なんだか暗澹たる気分になる。

「護衛の件なんですけど、別に一緒の部屋である必要はないと思うんです。特2部屋だって空いてますし、せめて隣の部屋なら…」

「ナグル大尉を部屋に連れ込める…ということか?」

 ”眉間に皺”を通り越して山脈が形成されるほど、ジオさんは憤怒の表情を見せた。あー、もしかしてこの人ゲイフォビア?「同性愛者を見て恐慌状態(パニック)に陥り、一刻も早く排除せねばと殺しました」とか法廷で言っちゃう類の人?

「いえ、私は別にそんな…」

「リイチ、吾等の部屋には吾等以外、どんな雄の進入も禁ずる。ハスギ大尉及びナグル整備長との二人きりでの接触も許さん。これは護衛役としての命令だ。」

 彼にしては珍しく、やや捲し立てるように一気に告げると、ジオさんは一呼吸置いた。

 ああ成程。自分の身の貞操はいくらでも守れるけど、他人とのそれを目撃するのは嫌だから、その可能性がある相手とは一切接触するなと。…何様なんだろう、この人。「俺様はホモのイチャコラなんて見たくないから、お前は公私問わず男相手に一切接触するな」だなんて。

 異性同性問わず、交際・恋愛の自由はアルマフト国の憲法で規定されてる。ルール違反は嫌いなんだよね、私。これでジオさんが同性愛に不寛容な日本国民とかなら、まだ諦めもついたんだけど。同性愛を法律で公認してるアルマフト国民なのにこれは…。

 フォビア通報(同性愛を認めているアルマフトが、偏執・病的にこれを排斥する人物、所謂”ホモフォビア”を隔離・精神治療する為の通報制度)や む無し。ついでに、上層部にも報告してやろうか?私と尾根白家、RPOに於ける格の違いってやつを見せてやるのも悪くない。力関係について、ことプライベー トに於いては私の方が政治力あるぞ。

 …視線が少し反抗的になってるかも、私。

「それから−」

「外部より入電。友軍のコードです。緊急要請と思われます。」

 ジオさんの次の言葉を遮るように、通信士官が急転を告げた。

「何事か。」

 大島参謀長が即座に反応する。

「発:阿寒湖チュウルイ湾地球外結晶体研究・繁殖所、宛:RPO軍戦闘部隊。現在、施設がルーシ軍に襲撃・占拠されている。至急の来援を乞う。以上です。」

 大島参謀長と、私の目が合った。

「チュウルイ湾の施設が占拠!?」

「一大事だな。だが、動かせる部隊は…。」

  チュウルイ湾は、北海道の阿寒湖北岸側にある湾の名前だ。そこには、マリモの繁殖を解析・真似しながら進化・増殖を続けるクリスタルの結晶体(垢のような もの。喩えは酷いが、大変貴重。核融合炉の炉心素材にもなる)を管理・採集する研究施設がある。そこが敵に襲われ、制圧された。もしかして、今回の北海道 侵攻の狙いはこれか?

「主戦場の矢臼別演習場へ行く途中に阿寒湖がありますから、機動部隊だけで寄って対応しましょう。先ず飛行型と緊急展開パック(ERBP)装備機だけで先行すれば…。」


 頭の中で、対応する戦術プランを組み立てる。高速展開ができる部隊による第一波攻撃、その後は…。

「待て、それでは吾が…」


「尾根白中佐の1式Hやアマガネ少尉のMB12、ハスギ大尉のMB6A2とガイホウ君のTF-2Cは、重量制限の 都合でERBPが装備できませんし、艦を現地に寄せなければ出撃自体不可能です。ただ、私とリキだけでは対応に時間がかかりそうなので、零群から4式搭乗の2 人を派遣してもらいます。あの機体なら、ERBPに対応しています。」



 反論を遮って、言葉を続ける。もし、私やリキ達で対応し切れなかったら、その時はジオさんの出番だ。現地に到着して無理と判断したら、すぐに遅滞戦術に切り替えれば時間は稼げる。

「RPO常設軍は?」

 大島参謀長が指摘してくれる。





「手を貸してくれるのは嬉しいですけど、正直足手まといでしょう。今回の現場は狭く、新鋭機の少数精鋭で一気に奪還するのがベストと思われます。彼等は、本番の矢臼別演習場決戦まで温存すべきかと。」

 青森の三沢基地で合流したRPO常設軍だったが、案の定と言うか、旧式機ばかりだった。まとまった数で運用すればそれも多少は誤魔化せるだろうが、施設はそれほど広くなく、多数機の展開にはきっと苦労する。

「そうだな。…やれやれ、仕事を奪われてしまった。」

 大島参謀長が、狼獣人らしい大きな片耳を寝かせてバツが悪そうに頭を掻いた。あ、しまったやっちゃった。

「す、すみません!軍事素人のオタクが勝手に妄想を…。」

 ついつい、状況に対する作戦を立てちゃうのは私の悪い癖だ。一人なら兎も角、今はちゃんと大島参謀長という作戦立案の専門家もいて、仲間だっている。私が独り善がりに行動してはならないのだ。

「いや、君の立案した作戦も悪くない。何より、即応性は私が考えていたものよりも高い。君の計画をベースに、こちらで調整させてもらうよ。では、テラサキ特佐に出撃を命令する。さあ、走れ!」

 …案外、柔軟に受け入れてもらえた。嬉しいなぁ、少しは役に立てたかしら?さてさて、口だけじゃないってとこ、お見せしましょう?

「ハッ!テラサキ特佐、これより対象施設奪還の為、作戦行動を開始します!」

 背筋を正して敬礼し、CDCから駆け出す。刺すような視線を背中に感じながら。




 N.C.24年 3/21日 13:09
日本国 北海道札幌市近郊上空 戦略要塞艦『リュウゾウ・オネシロ』 第七格納庫 


「準備できてる!?」

 格納庫に飛び込むなり、開口一番咆えるように尋ねる。

「おう、もうバッチリよ!あとは自分で武器だけ持ってな。」

 格納庫を駆け抜ける私が、丁度彼の横を通る時、ナグル整備長はドサクサに紛れて”ポン”と私の尻を撫でた。

「ってコラ!なにしてんのもー!」

「ウッシッシ、役得役得。」

 高所作業車でコックピットへと登っていきながら、私は精一杯"がなった"が、当のナグル整備長はさぞ愉快そうに笑ってる。

「ナグル"大尉"!」

 と、私の"大声"とは比較にならない、獅子か虎を思わせる怒りの咆哮が格納庫内に木霊した。驚いてそちらを見ると、ジオさんが肩を怒らせて格納庫に駆け込んでくる。

「それはセクハラだ!」

 憤怒の表情のまま、ナグル整備長に詰め寄る。うわ、ホモフォビアのパニック症状?こわぁ…。近寄らないでおこう。

 コックピットに逃げ込むように収まった私は、機体の起動を開始する。

「マインドトレーサー・コントロール正常…。スキャニング…完了、シンクロスタート。ニューラル・アクセス確認。フィードバックチェック…OK。」

 通常のF2が、頚椎や手足の生体電気信号を読みこんで操縦するのに対し、私は脳波を直接スキャンして、生まれた時からモニタリングしてきた脳の情報と照らし合わせながら動くシステムを採用している。これは寺崎四兄妹にしかできない芸当だ。

「TF-1X『イクス』、起動!」

 ガクンッと軽い衝撃が走って、五感が機体のそれ優先になる。下を見ると、ジオさんとナグル整備長はまだ言い合ってる。見ざる言わざる聞かざる…。

[イチ兄待ってー。]

 隣で、リキが起動を開始したようだ。高所作業車の足場をガイホウさんが下ろしてるってことは、ここまで彼に運んできてもらったと。仲の御宜しいことで、善哉善哉。

「チンタラやってたら置いてくよ。」

[こちら『クーガー』。我々も、バックパックの換装と一部装備変更で少しかかります。お待ち下さい。]

 リキを煽ったら、シヤマさんがフォローするように通信に割り込んできた。あ、零群の4式はどっちも陸戦装備のままだっけ。

[こちら『セレスタル』、申し訳ありませんが、今少しのお時間をいただけますか?整備班も補給作業の疲れが残っているのか、動きに精細を欠いております。]

 カイラさんも、理論的に状況を分析して報告を入れてくれる。

「こちら『メガセリオン』、状況了解。準備でき次第飛行甲板へ移動後発艦。但し、現場への移動は全機の合流を待ってからとし、全機揃うまでは上空待機。…よろしいですね?大島参謀長。」

 無線の向こうで聞き耳を立てているであろうCDCの長にお伺いを立ててみる。

[『ファフニール』より各機へ。寺崎特佐の指示に従うように。
寺崎特佐、現在の小隊指揮官は君だ。細かいことまで介入はせん。存分に能力を発揮せよ。]

「ありがとうございます!『メガセリオン』、飛行甲板へ移動開始!」




 N.C.24年 3/21日 13:22
日本国 北海道富良野市近郊東上空 緊急対応部隊 




阿寒湖チュウルイ湾地球外結晶体研究・繁殖所へ。こちらRPO軍救援部隊、応答せよ。現在急行中だが、そちらの状況が知りたい。」

[ちょ、テラサキ特佐良いんですか?敵が聞いてるかもしれないんですよ?]

 私が救出対象施設に無線で連絡を取ろうとするので、カイラ中尉が慌てて尋ねた。

「敵が聞いていても構わない。そのリアクション次第でこちらも対応を考える。今はなんでも良いから情報が欲しい。」

 …。カイラ中尉は納得したのか呆れたのか、取り敢えず黙ってしまった。そして、肝心の通信は応答がない。

[あの通報は、決死のものだったのかもしれませんね。]

 シヤマ少尉が、余り考えたくないことを代弁してくれる。そうだ。あの通報で、焦った敵は職員の抹殺に走ったかもしれない。

「シヤマ少尉、ETA(
EstimatedTimeofArrival:到着予定時刻)は?」

[既に富良野を過ぎましたから、あと9分で到着する予定です。]

[イチ兄ぃ、見えた!あの湖のとこの施設だろ!?]

 リキがいち早く、目標地点に気付いた。

 さて、何が出てくるか…。




 N.C.24年 3/21日 13:31

日本国 北海道札幌市近郊上空 戦略要塞艦『リュウゾウ・オネシロ』 第七格納庫 


「(クソッ…まだなのか…!)」

 吾は今、1式Hの操縦席に収まった状態で、ずっと待機している。外にいると、ナグル大尉に八つ当たりでもしてしまいそうなほど、気分が荒れているからだ。

 ところで、ナグル大尉のリイチに対する態度については、何を言っても暖簾に腕押しの平行線で無駄な足掻きだった。

 正直に言うと、悶々としている。リイチとナグル大尉が愛称で呼びあうほど親密な恋仲にあったと聞いて、そして2人は別れたが、ナグル大尉は決して諦めているわけではないということに。−忌々しい、とすら思ってしまう。

 一体どうしたのだろうか、吾は。以前はこんな事は一度もなかった。
 当たり前だ。エレメント症候群という生まれつきの、そして不治の病が、吾の感情の発達を抑えていたのだから。

 ただ、その症状が特定の条件下で改善することも吾は知っている。それを教えてくれた姉上は言った。

 「だからねジオ、運命の出会いをしなさい、私達のお父さんみたいに。」と。

 果たして、今吾の心で渦巻くこの感情がそれなのかはわからない。何もかも前例がなく、比較も検討もしよ うがないのだ。情報不足も甚だしい。ただ、吾を突き動かすこの胸の底から噴き出す本能の濁流には、余り抗えていないのも事実。その事でリイチに迷惑などか けていないだろうか…。

[CDCより各機、先遣隊が敵部隊と接触!繰り返す、
先遣隊が敵部隊と接触!出撃待機を維持せよ!]

 また、護るべき人が先頭にいるのか…!




 N.C.24年 3/21日 13:23

日本国 北海道阿寒湖北岸チュウルイ湾 地球外結晶体研究・繁殖所 


「『メガセリオン』、ゴルフ(G)3、ターゲット・インサイト、エンゲージ!」

[『パンテラ』、ガンホー!G3、ターゲット・インサイト、エンゲージ!]

[『セレスタ』、ガンホー!G4、ターゲット・インサイト、エンゲージ!]

[『ドリュアス』、あの一番奥の奴!えーと・・・G4を攻撃します!]

 …最後のリキは兎も角として、シヤマ少尉とカイラ中尉はさすが海兵隊のプロ軍人。対応が素早い上に、目標選定が正しい。

 さあ、今回の敵は地上部隊だ。ルーシ製のTA-5(
テー・アー・ピャーチ)式人型戦車、つまりF2。A型とB型の混成部隊だね。対戦車ミサイルを装備した奥の奴には要注意っと。


 尤も、やらせはしないケド?

「ガイドレールセット、マインドトレーサー・コントロール同調…。行け、ガンビット!」



 腰のリアアーマーに装備されていた二機の無人自律戦闘端末(UCAV)『ガンビット』が、鎖から解放されガイドレールをスルリと滑り抜けて飛び立つ。前回は専門外の空戦だったけど、今回の敵は地上機。存分に空から攻撃してやろう。

「ユニット、正常に稼働。ガンビット1・2、G1・2に対し牽制攻撃を開始する!」


 今回の私達の作戦はシンプルだ。私とシヤマ少尉で戦列を形成、リキが上空からカイラ中尉と目 標を合わせて襲いかかり、2基のガンビットは残る2機のF2を牽制する。倒す順番は、火力を吐かれると厄介な順にミサイル装備の奴、アサルトカノン装備の 奴、それからその他2機だ。もちろん、状況によっては盾を持った残り2機の方が邪魔になる可能性もあるから、まぁそこは臨機応変に?

 敵部隊からの射撃が始まった。ミサイル警報も鳴っている。さあ、叩き潰すよ!





 N.C.24年 3/21日 13:26

日本国 北海道阿寒湖北岸チュウルイ湾 地球外結晶体研究・繁殖所 


「ガンビット!牽制を維持!…ッこれでも…持ってけぇっ!」

 忙しい忙しい。ガンビットのAIに牽制攻撃を維持させながら、目の前の敵をシヤマ少尉と一緒に殲滅する。

 案の定、盾持ちが最前衛として立ち塞がってきたので、先ずはこいつらをまとめて私達で排除することにした。同時に、ガンビットも当初予定を変更して、2基で一番奥のミサイル持ちに集中攻撃させる。リキは空からアサルトカノン持ち狙いだ。



 敵との交戦距離は、前進を続ける私達によってあっという間に縮まり、最早目と鼻の先の相手と撃ち合っているに等しい。尤も、敵の弾は私が広域展開してる外向きの斥力場で殆ど意味を為してないんだけれど。

 と、ガンビットの射撃が的を外した。流れ弾が横合いから、無防備な盾持ちの一機に突き刺さる。体制を崩した相手は、盾の構えが取れていない。チャンス!

「そこ!貰ったァァァァァァァっ!」



 腰だめに構えたCUBR30(クーブル・サーティ)汎用ライフルを素早く向け、FCSの火器制御支援を受けながら30mm機関砲弾を3点バーストで叩き込む。シヤマ中尉の四式も私に続いてFUR30(フュー・サーティ)汎用ライフルで攻撃する。
 敵は姿勢を立て直す事もままならず、全身に大量のHE弾を受け、天を仰いで地に伏した。一機撃墜!

「『メガセリオン』、G3スプラッシュ!次の目標へ移行する!」

「『パンテラ』、ガンホー!G2への攻撃を提案します。」

「『メガセリオン』、提案を了承。G2を攻撃する。」

 シヤマ中尉と手短に話し合った結果、ゴルフ2(ツー)、アサルトカノン持ちを狙うことにした。その後ろの対戦車ミサイル持ちは、既にガンビット の攻撃とリキの攻撃の流れ弾でボロボロだ。その上、私が展開する斥力場によってミサイルを発射しても満足に飛行の為の速度が稼げず、ヒョロヒョロと情けな く蛇行を繰り返した挙句ボトリと落ちる始末。放っといても平気だろう。

 敵の持つアサルトカノンはSKG汎用ライフルのようだ。40mm口径の高圧速射砲なだけあって、この斥力場環境でも地味に痛い。まぁ、F2における歩兵 のアサルトライフル(あらゆる任務に対応する汎用小銃)を目指してるわけだから、当たり前ではある。軍隊の主役小銃だ。
 同じくアサルトカノンを装備する標準的装備のシヤマ少尉機は、火力でドンドン敵の装甲を削ってくれる。カイラ少尉もそうだが、今回は軽量化の為にライフルのストック部分が伸縮式の物に変えてある。その分、精度が若干落ちる筈なのに、二人ともよく当てている。

 と、鋭い砲声が一発、私の背中側からこだました。



 カイラ中尉の放ったマルチロールカノン(人間の歩兵でいう、マークスマンライフル)の一撃が、ついに敵盾持ち2機目の装甲を食い破って貫通したのだ。
 力なくその場にくずおれた敵からは、内部での火災を物語る細い黒煙が一筋、立ち上っていく。撃墜と見ていいだろう。

 これで大勢は決した。私とシヤマ少尉とリキの3機がかりで、残ったアサルトカノン持ちを蜂の巣にする。ほぼ同時に、ガンビットとカイラ中尉の放った一撃がミサイル持ちに突き刺さり、これもダウンさせた。



 一先ずはこれで、敵部隊殲滅完了だ。




 N.C.24年 3/21日 13:35

日本国 北海道阿寒湖北岸チュウルイ湾 地球外結晶体研究・繁殖所 


 敵殲滅から程なくして、リュウゾウ・オネシロが合流した。敵殲滅完了をCDCに伝えて、施設内の捜索を行なう為に人員派遣を要請すると、ジオさんが真っ先にF2で”降って”きた。その動きから、大分鬱憤が溜まっていることが伺える。

[ご苦労だった。カイラ中尉、シヤマ少尉。]

[[ハッ!ありがとうございます!サー!]]

  2人の労をねぎらいながら、ジオさんは機体を降りる。恐らく、内部の捜索を行うつもりだろう。両手に化け物じみたハンドガン…いや、ハンドカノンというべ きか、それを構えて、リボルバーの弾をチェックしている。さて、それじゃ私も一緒に行こうかな。まだまだ暴れ足りないし。斥力場で首刈り魔でもやーろうっ と。

[お供しますぜ、中佐!]

 ズンッと地響きを立てて、ハスギ大尉のMB6A2も下りてきた。そのままハスギ大尉はコックピットから89式自動小銃を取り出し、
機体から降りる。

「私も行きます。施設の状況を調査しないと…。」

[ダメだ。…と言いたいが、大島大佐から命令も出ている。寺崎特佐の同行を許可しよう。カイラ中尉とシヤマ少尉は、そのまま周辺警戒に当たれ。]

 渋々…いった風に、ジオさんは答えた。流石に、私の専門とも言える結晶体施設に関して、「来るな」とは言えないらしい。大島大佐も念押しの命令をしてくれていたようで、ありがたやありがたや。

「リキも、外の事はお願いね。」

 上空旋回を続けているリキにも、外で待機していてもらおう。中で何かあっても対応できるが、外で何か起きたら私達じゃすぐには対応できないし。

[アイ・サー!任しとけ!]

 私の頭上をフライパスして、意気揚々とリキは答えた。うん。大丈夫そうね。

[俺の事も忘れんなよな!『ダイアウルフ』、周辺警戒に当たる!]

 再びの地響き。『ダイアウルフ』こと、ガイホウ君のTF-2Cも下りてきた。そういえば、彼って一般人なのにコールサインあるんだ…。いや、そういえばアルマフトは国民皆兵制度で、彼も既に予備役の学徒兵ではあるから、あっても不思議じゃないのか?

「それじゃみんな、外の方はお願いね〜。」

 私も機体を降りて、ジオさんとハスギ大尉の元へ駆け寄る。



 N.C.24年 3/21日 13:39

日本国 北海道阿寒湖北岸チュウルイ湾 地球外結晶体研究・繁殖所 施設内通路 


 施設の扉を慎重に開けて、ジオさんとハスギ大尉が素早く内部へ侵入し、銃を構えて捜索を行う。

「クリア!」

「クリアー!」

 そんな二人を尻目に、私はズンズンと施設を進む。…但し、斥力場を暴風のように荒ぶらせながら。
 ”斥力の風”が逆巻き、あちこちヘと軟体生物の触手の如く隅々まで入り込んでは、反発力に反応する物体を探す。

 ジオさんは何か言いたげに口を開いたけれど、結局はグッと言葉を飲み込んだ。どうやら、効率の良さを認めてもらえたらしい。その一方で、ハスギ大尉に至ってはただただ驚いてる。そりゃそうだ。普通の人間や獣人には、到底不可能な芸当なのだから。

 足早に施設を進んでいくと、私は何かを感じた。いや、正確には斥力場が何かに反発して反応したのだが。

 倉庫らしき部屋の扉を開ける。あまりの無防備さに、またジオさんが何かを言いかけた。が、やはり黙った。言っても無駄だと思われたかな?

 倉庫の中には、白衣やら作業着姿の男女が体を拘束されて押し込まれていた。この施設の職員-研究員と作業員-だろう。幸い、皆に目立った外傷はない。

「大丈夫ですか?」

 ブービートラップを警戒して、慎重に距離を詰める。斥力場の警戒を密にして、ワイヤー付手榴弾や時限爆弾等の物体がないか確認する。…どうやら、そういった類の物は仕掛けられてないらしい。

「全員・・・かはわからんが、兎も角まとまった人数で無事が確認できたのは幸いだな。」

  ジオさんの言葉に、私もハスギ大尉も頷いた。まだ他にもいるかもしれない。そもそも、殺害ではなく拘束だったのも気になる。銃で見つけ次第全員射殺してしま うのと、一人ずつ捕まえて縄で縛って拘束用の部屋に移動するのと、どちらが手間かなんて考えるまでもない。となると、生かしておく何かしらの理由があった のだろう。

 …結晶体の研究と繁殖施設職員を拘束して一箇所にまとめる…。そんなの『連れ去る為』くらいしか思いつかない。自国に連れ去って、拷問なり懐柔なりで技術を吐かせるわけだ。小癪な、忌々しい『アカ』どもめ。

「最悪、殺されててもおかしくないと思って心配してたんだけど、良かったッスね。」

 ハスギ大尉が、率直な感想を口にしたので、これ幸いと私の素人考えを「もしかしたら」「みたいな感じで」の憶測ですよアピールを付けて2人に開陳する。自分では安直な考えすぎたかと思ったが、何故か二人とも結構納得してくれた。

「成程。結晶体の量産技術はRPOの独占技術。特にこのチュウルイ湾施設は、RPO最大の生産量を誇るからな。」

「マリモほどじゃないにせよ、アメリカやアルマフトでも淡水で同じ種類の藻が茂ってるところだと生産量高いってのは聞いたことあるッスね。自分の国のそういう湖で働かせるつもりだったと。なるほどなぁ。流石、りーちゃん特佐。専門家のご意見は的を射てる。」

 いや、そんなに真っ直ぐ飲み込まれると、思った事を口にしただけの私としては凄く複雑というか、いっそ「いい加減なこと言ってごめんなさい」くらいの罪悪感すらわいてくるんだけど。弱ったなぁ…。

「と、取り敢えず、施設内の捜索を続けましょう。敵の工作員や、ブービートラップなんかがあるかもしれないから慎重に。トラップを発見したら教えて下さい。斥力場で無力化してから爆破処分します。」

 兎も角、気を取り直して、ここにいるスタッフが全員とも限らないし、施設に何かしらの危険が残っている可能性だってある。捜索を続けよう。



 N.C.24年 3/21日 17:58

日本国 北海道阿寒湖北岸チュウルイ湾 地球外結晶体研究・繁殖所 広場 


 結局、あの後も捜索を続けたけど、何も見つからなかった。拘束されていた施設スタッフからの事情聴取も終わり、施設の警備に応援を呼んで、到着まではRPO常設軍からF2を4機(一個小隊)割くことになった。これは、私と大島参謀長とで話し合った結果だ。

 幸いにも施設スタッフに死者はなく、私達への通報を送った作業員の一人が頭部を銃床で殴られて重症だったけど、これも検査の結果では別状も後遺症もないことがわかったし。

  心残りがあるとすれば、結晶体の備蓄庫に備蓄されていた施設生産量換算で1年分もある大量の結晶体が、全て運び出されてしまったことくらいか。大型の常温 核融合炉が7〜8基は作れる量だ。…まぁ、人命よりは安いと思おう。この施設と時間さえあれば、いくらでも産み出せるんだし。

[リイチ。]

 TF-1Xのコックピットに戻り、低空で待機するリュウゾウ・オネシロまでジェットパックでジャンプしようと思っていた私は、不意に無線で呼び止められた。相手は勿論…。

「ジオさん?どうしました?まだ何かありました?」

 あれ、施設で何か見落としてたところ、あったっけ?多分、ちゃんと全部調べたと思うんだけど。いやいや、いつも注意力散漫な私のことだ。目敏いジオさんは私が見落としたものに…

[CDCで話していた、今後の吾による護衛方針に関する話の続きだ。]

 あ、そのお話でしたか。…うーん、やっぱり自分と同じ性別の同性愛者-ゲイ-に抵抗があるなら、護衛役を変わってもらった方が良いと思うんだよなぁ。
 具体的に、候補が一名頭に浮かぶ。まぁ、その彼は現在、北海道の最前線で絶賛修羅場真っ最中の筈だけど。

[…]

 言いあぐねてる。じゃあ、こっちから切り出そう。護衛役を辞退してもらえるように。と、私が口を開きかけた所で。

[先ず繰り返すが、今後、リイチは周辺に吾以外の雄を不用意に近づけてはならん。これは護衛上重要な事だ。]

 護衛上重要なことって…それなら男女関係ないでしょうが。雄限定な時点で、何か性的なものを警戒してるとしか…

[それから、これは極めて大事なことなのだが、今後、吾の傍を離れないようにして欲しい。これも護衛上、重要だ。]

 …はい?




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