N.C.24年 3/21日 10:00
日本国 青森県三沢市 RPO空軍三沢基地 戦略要塞艦『リュウゾウ・オネシロ』 中央船体上甲板
一緒に作業してくれているアマガネ少尉が、首を傾げる。数日前に普通科高校を卒業したばかりの元学生が、何故いきなりVLSの取扱い注意をあっさり覚えてマニュアル通りこなしているのか、不思議でならないらしい。「オーライ、オーライ、オーライ、はい、ストーップ!えーと、ガイドをセットして…と。じゃ、ゆっくりおろして下さーい。」
Mk.41VLS(VerticalLaunchSystem:垂直発射システム)専用のモジュールに装填されたSM-2ER長距離艦対空ミサイルの最後の一発を、クレーンが慎重に運ぶ。ミサイルだけで全長6.6m、総重量が1.4tもあるシロモノを指定された場所に、正確にまっすぐ垂直に降ろさねばならないのだ。こう見えても結構緊張するんだぞ。 しかも、ミサイルが収まってるモジュールはガワが共通規格(Strike-Length:ストライクレングス)なので、トマホーク巡航ミサイルといったより大きなミサイ ルも装填できるよう、中身に比して大きく作られている。全高で7.7mもあるのだ。トマホークに比べれば軽いのでまだ御しやすいとはいえ、数は数倍。時々斥力場を張ってズ ルをするくらいには忙しい。 「寺崎特佐、もしかしてこういうのに慣れてます?。」 「慣れてないよー。ただ私、ミリタリーオタクだから…。」 「VLSがどんな物かは知っている…と。」 「惜しい。Mk.41のストライク/タクティカル/セルフディフェンスと、シルヴェールA35/A43/A50/A70の違いくらいは分かる男・・・と思っていてくれ給へ」 「あ、参りました〜。へへ〜。」 モジュールが正しく垂直に降りている事を見守りながら、そんな2人で漫才をしていると、ジオさ…尾根白中佐に睨まれた。ごめんなさい。ちゃんと仕事してますからお許しを。 |
N.C.24年 3/21日 10:02
日本国 青森県三沢市 RPO空軍三沢基地 戦略要塞艦『リュウゾウ・オネシロ』 中央船体上甲板
「なあ、シヤマ少尉。」 「なんです?隊長。」 「吾は何故、リイチとペアを組んでいないのか?」 「…隊長、今朝何食いました?」 「いや、真面目な話をしているのだが。何故吾は、いち早くリイチと組んで作業をしなかったのだ…ッ!」 うちの隊長がなにか変なものを食ったらしい。(確信) ああ、それでさっきから、向こうで作業するアマガネとテラサキ特佐を、羨望と憤怒の眼差しで見つめてたわけだ。 「RGM-109・トマホーク巡航ミサイル用モジュール装填のために人数割いた時、別作業並行に小柄な2人でペア組んでもらったんですよ。もう忘れたんですか。」 「…何故吾は大柄なのか。」 悲しそうに呟く隊長。今の彼を見てると、エレメント症候群で感情が未発達な朴念仁-冗談ではなく、隊長は生まれつきそういう"病気"である-だった彼とはまるで別人。一体何が起きてるんだ? 「隊長、寺崎特佐がアルマフトに提出したパーソナルデータから性愛傾向の公開情報を確認しましたが、彼は同性愛者で、大柄・かつ筋肉質な男性を好むとなっています。」 「そうか、吾は大柄で良かった。」 「大柄で筋肉質・・・ヘヘッ♪」 カイラの余計な報告で、今度は急に胸を張って喜びだした。同性愛者で小柄&華奢なヒトを好む趣味のハスギは兎も角、なんで隊長まで急に喜びだした?いつもはオレと一緒に生暖かい目で見守るのが常なのに。 「…え、隊長。そんなまるで恋してるみたいな事言って。いつもの朴念仁はどうしたんです?」 ハスギが警戒心丸出しで恐る恐る尋ねる。そりゃ、今までは朴念仁だったとはいえ、飲み込みも早く、社会的ステイタスがトップクラスに高い隊長に恋愛感情が芽生えて恋のライバルにでもなったら、常識で考えてもまるで勝ち目なんかない。 平民の母子家庭で父親不明という、一般社会から白い目を向けられていたであろう家庭環境のハスギには、特に脅威に感じるのは無理からぬ話だ。まぁその辺、、どうも本人が気にし過ぎなきらいもあるんだが。 もっとも、尾根白家みたいな名門となると、家督の都合とかで同性愛に古いフォビア(恐怖症)を持ってたりする事もあるから、その点では母親さえ了承すればいい身軽なハスギの方が有利ではあるだろう。一長一短だな。 「じゃあいっそ、アマガネと交代してきたらどうです?こっちはこれが最後の一本で、もうすぐ終わりますし。」 カイラが横から、解決案を出す。隊長は目を丸く見開いて(こんな表情も見たことないぞ)その"名案"に食いついた。 「そうか。ではこちらは頼む。ハスギ、副隊長として、しっかり任務を全うするように。」 言いながら力強い笑顔(勿論初めて見た)でハスギの肩を叩くと、隊長は踵を返して猛スピードで向こうの方へと駆けていった。あ、こりゃ抜け駆けする気だな。ライバルのハスギをしっかり遠ざけるあたり、こりゃ本物だ。 「何してくれてんだよカイラっちぃぃぃぃぃぃぃぃっ!…ぎゃふん。」 ノックアウトされ甲板に大の字で沈むハスギには目もくれず、俺達は黙々と作業を続ける。仕事仕事…っと。 |
N.C.24年 3/21日 10:32
日本国 青森県三沢市 RPO空軍三沢基地 戦略要塞艦『リュウゾウ・オネシロ』 中央船体右76mm砲室
ミサイルの次は砲弾だって。 主砲も副砲も機関砲も一斉に補充してる上に、 128基のミサイルセル装填。更に、PMO常設軍のF2部隊やヘリコプター部隊搭載と関連物資・人員の受け入れ。大忙しだ。まぁそうでもなきゃ、私なんて 駆り出されないだろう。リキですら、すぐ隣で私と同じ作業をしているくらいなのだから。 「次はこれか、リイチ。」 私がマーカーでチェックした76mm砲弾を指して、ジオさんが問う。 「はい、それです。ジオさん。」 私は忙しく、手元のリストと目の前の砲弾達に刻印された製造番号を照らし合わせながら、横目でちらりとジオさんの方を見、頷いて答える。 「よし。」 確認すると、ジオさんは太い腕で砲弾を棚から取り出し、縦向きにバレル-砲塔下の弾倉-へ装填する。 それからはもう黙々と、私がマーカーでチェックした砲弾を次々にバレルへ放り込んでいくだけの単調な作業。 ところで、ジオさんはトイレットペーパーの芯みたいに扱うけど、鍛えた軍人でも両手で持つようなくらいには重いんだけどなぁ、それ。 「えーと次は…。」 拙い、ペースで負けてる。こっちも集中してやらないと…! 私はうんうん唸りながら砲弾の刻印と手元のリストを矯めつ眇めつしては、赤いマーカーで砲弾の底にチェックマークを描き、ジオさんはそれをバレルに装填していく。 「…暑いな。」 ふと、ジオさんが呟いた。確かに、右舷艦首76mm砲の 3つあるドラム式バレル装置の内、最後列を担当している私達は、狭い部屋に残り2つを担当する2チーム計3名のマッシヴな獣人さん達(約1名は殆どヒトの身体だけ ど)ごと押し込まれている。細身の私ですら暑くて、制服の上着を脱いでシャツ一枚なのだ。体毛と筋肉のあるジオさんには地獄の熱気だろう。 …だからって、いきなり上着を脱ぎ捨てないで欲しい。貴方、それ脱いじゃったら上半身全裸ですよ? 「ふぅ。…人心地…か?」 少し涼しくなって落ち着いたのか、ジオさんがため息を漏らす。ああ、目の毒だよぅ…。タテガミも、薄い縞模様も、全部、全部格好良いのに、それが筋肉で陰影を浮かべて一層…!もうこれ以上私の拙い語彙力では描写しきれないっ! 「あ、叔父貴ズルいっすよ。オレもオレも。」 言いながら、リキとペアを組んで作業していたガイホウ君もバサリとタンクトップを脱いだ。…うわ、こっちは生々しいというか肉肉しいというか…。人間的な毛深さなので、褐色の荒れた肌に縮れた剛毛がびっしり胸板を覆ってる。 って、リキ、ガン見しすぎっ!チラ見にしときなさい! |
N.C.24年 3/21日 10:49
日本国 青森県三沢市 RPO空軍三沢基地 戦略要塞艦『リュウゾウ・オネシロ』 艦橋
義弟、大島参謀長の鉄火場がCDCなら、私の鉄火場はここ、艦橋だ。なんたって"艦長"だからね、私は。 「76の1番、装填率89%。」 「同76の2番、装填率72%。予定より若干、作業が遅れ気味です。」 「155mm三連装砲、装填率51%。人員を回してください、これじゃ全然足りませんよ。」 「RPO常設軍F2部隊、全機搭載完了。…たったの8機ぽっちですが。」 「諸物資、搭載作業進行中。かなりの遅れが見られます。人員不足が致命的ですね。」 ちょくちょくボヤキが交じる現状報告を聞きながら、私は先程からずっと頭を悩ませていた。人員不足がまったくもって深刻なのだ。補給作業は割合、人海戦術 が強い。米海軍式に商業チェーン店のようなPOSシステムを採用し、各部署ごとにリクエストを上げさせてそれを補給可能な全体量と比較・検討・調節し、優 先度の高い物資から順に補給を進めているのだが、そこまで効率化しても、物資の搬入は結局人の手で行う。つまり、運ぶ人間が必要になるのだ。 最低限、広い艦内にはベルトコンベヤも整備されてはいるが、整備の手間や戦闘のダメージコントロールを考えればそれも限界がある。 そんな超大型艦が、本来の乗員を乗せずに出航した。 状況が状況故に致し方ない部分があったとはいえ、流石に苦しい。泣き言を言っても始まらないのだが。 「手の空いた者から、物資の運搬を開始しろ。生鮮品は特に、いの一番に冷蔵庫へ搬入。短い足を縮めてくれるな。それが済んだら整備・補修部品だ!かかれ!」 兎にも角にも、手と足を動かすしかない。私はここで、全体を効率良く動かす脳の仕事を全力でこなさねば。 |
N.C.24年 3/21日 10:49
日本国 青森県三沢市 RPO空軍三沢基地 戦略要塞艦『リュウゾウ・オネシロ』 CDC
「降ろすぞ。リイチ、下がっていろ。」 「はい、お願いします。」 静かに、CDCの床へコンソールが降ろされる。こんな何十kgもあるようなクソ重たいものを、ジオさんはよく平然と持ち上げられるなぁ。感心する。 「位置は・・・こんなものか。よし。配線を頼むぞ、リイチ。」 「待ってました!マニュアルバッチリ読みましたから、お任せあれ!」 ジオさんがコンソールを運んだら、次は私の仕事。このコンソールの配線を、CDCの床や壁に設置されたソケットやらコンセントやらプラグやらに順番に差し込んでいくのだ。COTS(CommercialOffTheShelf:商用オフザシェルフ)化が進んだおかげで、一部端末を除けば基本は民間型のコンピューターと扱いが似ており、マニュアルさえあれば私でも立ち上げ作業を手伝えるくらいだ。ソフトウェアはその限りではないが。 …1/4も端末台数が不足してたなんて、昨晩はもっと積極的に私とリキで戦うべきだったかなぁ?今更だけど。 「えーと、これがここで、こいつはここ…と。できました!8番お願いします!」 配線を次々に繋いで、準備完了した端末は正規のクルーがチェックした後、固定金具をボルト止めした上で電源を投入する事になっている。 配線間違いで壊して私の責任・・・なんてことになったら困るしね。 素晴らしく芸術的な裸体を晒しながら黙々と作業を進めるジオさんを見てると、心底癒される。本当に格好良いなぁこの人。作業の疲れ(主にジオさんのせいで力仕事させてもらえてないけど)も吹っ飛ぶよ。 「ガイ、これもうちょっと右じゃね?」 「ん?こうか?」 「もうちょっとこう…。」 「こう…?おお、ピッタリだ!流石リキ!いい目してるぜ!」 私の隣で繰り広げられるやり取り。 …あの2人、本当に最初から仲いいなぁ。相性が良いんだろうけど、もう愛称&呼び捨てかい。私はリキがいつ粗相をするか気が気じゃない。何せ相手は、アルマフト軍きっての名家の家系なんだから。 「イチ兄〜?次の配線〜。」 見ていると、ケーブルの詰まった段ボール箱を持ってリキが寄ってきた。いけないいけない。仕事仕事。 |
N.C.24年 3/21日 10:49
日本国 青森県三沢市 RPO空軍三沢基地 戦略要塞艦『リュウゾウ・オネシロ』 中央冷蔵庫
「ほーい、退いた退いたー。キャベツ様のお通りだぞー。」 ハスギが、キャベツの入った重いダンボールを3つも抱えて冷蔵庫にやってきた。扉の開閉を手伝ったアマガネは、同じくキャベツのダンボールを台車に2つ乗せている。 「えーと、キャベツ置き場は…よっしゃここだな。」 「おーもーいー!」 軽々とダンボールを棚に上げていくハスギと、全身の筋肉をフル活用して持ち上げるアマガネ。筋力は体格通りの差らしい。 「次もキャベツだー。まっだまだあるぜー!オレもCDCでりーちゃん特佐とイチャイチャしたいぜー!」 「うげぇ…今晩はキャベツ食べたくないかも。…向こうはイチャイチャしてる暇ないと思うよー。力仕事と頭脳労働に別れてるし。」 頭脳派のアマガネが肉体労働にうんざりしてハスギに嫌味を言い始めた。 「それはそれで、俺様のこの肉体美を見せる絶好の機会になるじゃねぇか!フンッフンッ!」 アラスカンマラミュートと狼種の混血らしいウルフドッグのハスギは、冷蔵庫を「寒い」とも思っていないらしい。いつの間に上着を脱いでいたのか、裸体の上半身-体毛と筋肉で巨大なぬいぐるみのようだ-を晒し、鍛え上げた身体を誇示する。 「やめろバカスギ。冷蔵庫の温度が上がるだろ。」 運んできたタマネギのダンボールを棚に上げた俺は、窘めつつその体と自分の体を見比べ、少し羨ましく思ってしまう。同じネコ科だというのに、隊長も筋肉が つきやすい。原種のクーガーがネコ科では大型の中肉レベルだったことを思えば、オレの体型は十分絞った上で筋肉質なのだが。 「いやいや、この面積の軍艦用冷蔵庫ならば冷蔵能力は十分に…。」 ニンジンを運んでいた筈のカイラが隣の棚から出てきてうんちくを垂れ流しだした。どうやら棚に仕舞い終えたらしい。 「カイラ、今はいーからニンジン運んで?ジャガイモでもいいよー。」 相変わらずウンザリ顔のアマガネに遮られて、カイラの講座は強制中断される。さて、とっとと運ぶか。タマネギを。 |
N.C.24年 3/21日 10:49
日本国 青森県三沢市 RPO空軍三沢基地 戦略要塞艦『リュウゾウ・オネシロ』 艦橋
「どうだ、アマツ。」 「どうもこうも、人手が全然足らんよ、ソウガ。人間とは比較にならんほど筋肉自慢の連中ではあるが、それでもこの人数ではなぁ…。」 CDCが完全に内装工事の現場と化してしまったので、仕様上は完成済で既に艦の司令塔として機能しているこの場所に来てみたが、作業進捗を尋ねる俺に対して"志道艦長"ことアマツの回答は"ボヤキ"だった。 「俺達も連中に混じって作業するか?」 「バカ言え、俺達、指揮する立場の人間が現場作業なんてしてみろ、イクトに「給料泥棒め。もっと頭を使え」と小言を言われるに決まってる。冗談じゃない。」 ああ、確かにそうだな。イクトの呆れ顔を想像して、つい乾いた笑いが吹き出た。 月ヶ峰 郁人(イクト)中将。高齢になった尾根白家現当主、尾根白 満津(ミツ)から全幅の信頼を預かり、尾根白家を切り盛りする”宰相”。"尾根白三美人"の長女:桃花(トウカ)を妻に娶った、アルマフト社交界の"力"の象徴。 そんな彼は、アルマフト軍を清廉・精強な組織にするべく、組織の頂点-軍作戦本部参謀総長にして文民指揮官たるアルマフト国大統領の軍事顧問-の席 に座り、小さな改革を繰り返しながらこの要塞艦購入、寺崎 リイチを筆頭に据えた新型F2開発計画『プロジェクトW.I.N.G.』等に代表される一大軍 事力"整理"で、アルマフト軍にポム落着後の世界変動を泳ぎきらせた”若き英傑”である。 父親はかの英雄、尾根白 龍蔵の右腕だったと言うから、その実力も頷ける。 まぁ、そんな凄い人も、義弟として親密な親戚付き合いをしている俺達からすれば”頭の上がらない兄貴”くらいの存在だが。 「で、頭を使ってみてどうだ?北海道戦線が小康状態になってくれたおかげで、こんな事してる時間的猶予があるわけだが。」 なった、というか、小康状態にした、と言った方が正確だな。軍事に聡い諸君は、作戦参謀の俺や艦長たるアマツの一つ上の人間、要塞艦全体を指揮する人間が、影も形も見えないことにお気づきだろうか? その人物が、北海道での艦載部隊訓練を閲兵中に今回の北海道侵攻事件が起きたのだが、戦略的慧眼で即座に現地の司令部を掌握して防衛戦闘を全力の遅滞戦術に切り替え、膠着状態にしてくれた。 そうして稼いでもらった貴重な時間的猶予を活かして、我々はささやかな補給が受けられるというわけだ。 「こればっかりはどうにもできん。そもそも三沢基地自体、空軍の基地で陸軍や海軍ほど人が詰めてるわけじゃないからな。基地の少ない人手から、なんとか無理を言って手伝ってもらってはいるが…。」 「盤面をひっくり返すほどの改善は無理か。」 「竜王クラスのプロ棋士に弄ばれてる気分だよ。」 ウンザリした顔のアマツ。盤面の駒なら長考しても文句を言わんが、血気に逸る現実の兵隊の場合はそうではないし、兵がいつ何時でも完全に決まり通り機能する将棋と、兵の練度や士気、それに兵器の性能や、時と地形と運が絡む現実の戦場では勝手が違う。 「まぁ、全体としてはそう悪いペースではないから、時間には間に合わせるさ。」 「それを聞いて安心した。」 義兄の謙遜が混じったそれは、いつも力強く感じる。これならきっと、12時には完了させてくれるな、と。 |
N.C.24年 3/21日 11:32
日本国 青森県三沢市 RPO空軍三沢基地 戦略要塞艦『リュウゾウ・オネシロ』 中央船体 第七格納庫
格納庫を部隊毎に分ける整理が行われて、私達C.E.L.L.は第七と第八格納庫を都合してもらった。 「おーい、りーちゃん、こっちだー。」 私を愛称で呼ぶ声は、モーちゃんこと那刳 猛雄(タケオ)整備長。 「りー…ちゃん?」 私の隣、頭上の方から、低い、くぐもった雷鳴のような声がした。顔を見上げると、ジオさんが眉間に皺を寄せている。 「…。あ、ごめんねモーちゃん。じゃあ、この機体は予定通りここで降ろすってことで。ヨロシク。」 そう言って、私は傍らに立つXTF-1J-仙台基地でジオさんが動かして以来、格納庫の番人となっていた機体-を見上げた。 ![]() 「む、この機体は降ろすのか?現地で誰かを乗せれば使えそうだが。」 ジオさんが首を傾げる。確かに、戦力が足りない・古いと言っておきながら、最新鋭の試験機を後方にポンと置いていくなんて、贅沢に聞こえるかもしれない。 「ダメですよ。そもそも試作機なんですから。運用面でも、私のTF-1XやリキのTF-1Fと共通性があるとは言え、戦力としてそこまで期待も出来ないものに整備のマン・アワー・パワー(単位時間当たりの人的労働力)割きたくないですし。」 そう。低率初期生産(LRIP)中とはいえ、この子はまだ”足りない”のだ。それをアルマフトのメーカー、RAI社の工場で改良し更にデータを取って、最終調整を済ませてはじめて実戦力化が出来る。 「それに確か、こいつは研究用としてアルマフトの学校に送るんだろう?何てったっけあの…。」 「CTMS。カンファー・ツリー・ミリタリー・スクール。弟のリオが入学する学校ね。」 なんでも、現地に物凄く有望な子が入学するとかで、何故か警視庁の方から要望書が回ってきたけど、あれ、なんだったんだろ? 「では、弟君が乗るのか。」 「いえ、あの子は自分専用にTF-1を持ってますから。これに乗るのは別の子ですね。」 ヤツは絶対、こんな細い機体に乗らない。断言する。 「まぁ、上の指示もあるしりーちゃんがそう言うなら下ろすけどよぉ…。」 不満気なモーちゃん。多分、「整備はいつでも万全だしこれくらい屁でもねぇ!」って言いたかったんだろうなぁ…。 ところで、私の後ろに低気圧があります。ちょっとジオさん、そんな威嚇する目でモーちゃんを見ないでください。 「ナグル”大尉”、テラサキ特佐に対し先程からの無礼な言動は謹んでもらおう。」 あ、小爆発した。ジオさんは私の体を”ぐいっ”と引っ張り、自分の後ろに下げて私の視界を遮った。 「ん?ああ悪いな。勝手知ったる昔の仲ってヤツでつい、な。」 謝ってるんだか挑発してるんだか。なんかモーちゃん楽しくなっちゃってない?ねぇ? 「キサマとリイチになんの関係がある。…そうか、整備士と開発者の仲か。だがそんなものは…。」 ジオさんの怒りのボルテージはドンドン上がる。その熱量が勿体無いからお湯を沸かしたいくらいに。 「いいや、違うね。…元カレって奴だよ。尤も、俺は”終わった”なんて思っちゃいねーけどな。」 「なッ!?」 モーちゃんの爆弾発言に、目を見開いたジオさんがこちらを見下ろす。懇願するように見つめてるけど、事実は事実だ。なお、一部事実ではない誇張した表現があったので先ずはそれの訂正から。 「元カレでは無いですけど!? …でも、確かに私は同性愛者です。あ、気持ち悪いなら、お部屋変えましょうか?」 |
N.C.24年 3/21日 12:00
日本国 青森県三沢市 RPO空軍三沢基地 戦略要塞艦『リュウゾウ・オネシロ』
[全補給作業完了。] [青森県三沢基地の兵士、士官諸君、あなた方の尽力に感謝すると共に、必ずや北海道戦線をブチ抜いてくることをここに誓おう。] 外部マイクと無線通信で、三沢基地の協力に謝意を述べるアマツ。その声は獅子の唸りに似て、闘気を感じさせる。 [では、また会う日までさらばだ、偉大なる友人達よ!『リュウゾウ・オネシロ』、浮上!] アマツの号令と共に、駐機場で船体を休めていた『リュウゾウ・オネシロ』は、天高く舞い上がった。 |
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